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Twitterの様子などを見る限り毎食ラーメンか牛丼を食べては寿司を食べたいと言い続けている一般的な一人暮らし男子大学生の私ではあるが、意外なことに他の一般的な一人暮らし大学生らと同様にほんの少しだけだが自炊をする。おかげで実家に帰った時も、両親が出払っていれば冷蔵庫の中のもので適当に作って食べることくらいはできるようになった。

シンプルな野菜炒めに始まり、唐揚げ,天津飯,チキンの香草焼き,キノコのポタージュなど、料理に目覚めつつある料理初心者の定番料理くらいまではなんとか作れる。まぁ2年も自炊してればあれよあれよとレパートリーは増えていくものだ(但し、味は保障しないのでくれぐれも僕以外の人は食べようなどとは思わないように)。

定番な料理の一例にローストビーフが挙げられるだろう。比較的手軽に作れる料理として料理初心者にも人気があるように私は思っている(勘違いだったらすみません)。大体定番なところは私も一度は作ったことがある気がするが、実はローストビーフは作ったことがない。作り方さえもあまり知らないし、そして多分これから先も当分作り方を調べることはないだろう。というのもこれは私の父親がよく作っていたものだからだ。

 

・父親も40年くらい前には今の私と同様に一人暮らしの一般的な男子大学生だった日々を過ごしていたらしく、話を聞くに私の生活における牛丼とラーメンを定食に置き換えただけみたいな食生活だったらしい。そして私と違い早々に結婚、料理からは遠ざかった。

私が高校を卒業してしばらくたった頃、母親が一時家事のできない状態になったことがある。私の生活能力が皆無だったこともあり一切の家事を父親がすることになったのだが、毎日毎回外食をすることができるほど金が余っている状態ではなかったのでこの時期は父親が料理をする機会が多くなった。そのときによく出てきたのが、ただのもやし炒めとローストビーフである。どうやらこの時期にネットで調べて、材料が少なく作業工程の少ないものとして白羽の矢が立ったらしい。

このローストビーフだが、少し固くてパサパサしてたり筋張ってたりと正直そこまで美味しいものではないのだ。比較的工程が少なく簡単とはいえ、料理初心者が自宅で作れる料理の味なんてたかがしれているということである。「素直に買った肉をそのまま焼いて食ってればいいものを」なんて思いながら、それでも私たちが飽きないようにと料理をしようとしてくれる父親に感謝しているので、美味しい美味しいと言って噛みちぎるのに苦労するローストビーフを食べていた。それに気をよくしたのか父親はローストビーフを自分の得意料理だと確信したらしく、しばらくする頃には作る頻度がかなり多くなっていた。

1年弱ほどして母親の具合が良くなると、当然ながら父親が料理をする回数は自然と減っていった。それでも月に一度くらいは週末に少し固いローストビーフを作り、得意げな顔で家族に振る舞った。くちゃくちゃといつまでも噛み続けながら、いつしかその味が特別な日常であるな、と感じるようになっていった。

 

・それからまたしばらくして、私は一人暮らしを始めることになる。自炊も始め、レシピを見れば完成予想図のおいしさ3割減みたいな料理を作るくらいの料理スキルは手に入れたように思える。多分今の自分がちゃんとローストビーフの作り方を読んで、しばらく練習すれば父親と同じかもう少し美味いものが作れるんじゃないだろうか。

それでもローストビーフの作り方は覚えない。いまでもたまに実家に帰った時に父親がみせる得意げな顔を純粋な気持ちで見ていたいから。